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【読書】感染症の世界史

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会社の役員が言及していたことから気になっていた本であり、話題の一冊。

新型コロナウィルスに纏わるあれこれについて、正しい知識を身に着けたいと思い手に取ってみた(自粛期間中だったので通販で)

 

 

 

 1.はじめに

 

はじめに断っておかなければならないことが二つ。

 

第一に、以下に記すのは書評でもなければレビューではなく、本著を読んで学んだこと、考えたことを纏めているに過ぎないということ。従って本著の内容を紹介するものではないし、これから書くことが筆者の主張ということはない。

 

第二に、本著の初版は2018年1月であり、2020年6月末現在に流行のさなかにある新型コロナウイルス(COVID-19)について直接的な記述のあるものではないということ。ただし歴史や過去の例から学べることは多い。なお、帯や宣伝文句などで「新型コロナウィルスを予言していた」とされているが、著者が幾つか挙げている可能性の一つにすぎず、また読んでみればわかる通り、感染症の歴史と現状を照らし合わせれば決して難しい予測ではない。(後述するように、それはそれで大きな問題なのだが…)

 

 

 2.人類の歴史は感染症との闘い

 

高校で世界史を学んだ人間であれば馴染みのあることだが、人類はその歴史の中で幾度も疫病の脅威にさらされてきた。広く人口に膾炙したものだけでも、マラリアにペスト、コレラエイズ、スペインかぜ…と枚挙に暇がない。筆者はこれを『赤の女王』に例え、終わりのない戦いと表現している。

 

その理由の一つは、感染症の原因となる細菌やウィルスもまた人類と同様に進歩すること。筆者曰く現代のウィルスは「人類との戦いを乗り越えた生き残り」であり、抗生物質や抗ウィルス材に対抗する術を持ち始めているという。インフルエンザウィルスの予防接種が毎年必要なのも、COVID-19の治療薬が存在していないのもこれが原因である。

 

もう一つの理由は、人々の移動と交流が新たな病原体をもたらすということ。大航海時代にヨーロッパ人が持ち込んだ感染症によりアフリカ系先住民が大打撃を受けたことは有名だが、筆者によればアレクサドロス大王やナポレオンの遠征、シルクロードなどによっても感染症は広がったという。

 

今日の世界ではFTAEPAといった経済統合、あるいはMaaSに代表される運輸技術の進歩を背景に、ヒトやモノ、情報の移動は加速する一方であった。そのような中で、COVID-19のような感染症が急速かつ広範囲に広がっていくのは、ある意味当然ですらあったと感じられる。

 

 3.流行の背後にある社会問題

 

上述の通り人類の歴史は感染症との闘いの歴史といえるわけであるが、その背景にはその時代や社会を象徴する社会問題が存在している。例えばエイズの感染はアフリカのセックスワーカーが深く関連しているし、国内でも大阪の西成区においては結核の感染率が高かったという。(ここまで書いて思ったがこの記事BANされたり炎上したりしないだろうか)

 

驚くべきは、COVID-19と同じコロナウィルスに属するSARS震源は中国深圳において野生動物を食す文化にあり、そこにはCOVID-19の自然宿主とされるコウモリやセンザンコウも含まれているということ。しかもそれは今も改められていないという。となれば、今日の流行における感染源が同地である可能性は少なからず考えられるのではないか。

 

「国家非常事態宣言とは人間がその歴史の中で獲得してきた基本的事件の一部を手放すということであり、疫病に対する民主主義の敗北である」というのが私の持論なのだが、その敗因が、たかだか数年前の歴史から人類が何も学ばず、進歩してこなかったことだという可能性があるとは、まさか思いもよらなかった。もしこれが正しければ…というより、この可能性が存在すること自体が、現代人として恥ずべき事態に他ならないのではなかろうか。

 

※少し調べてみたところ感染源は「わからない」というのが現在の結論であり、上記はあくまで可能性の一つにすぎないことは明記しておく。

 

 4.おわりに――いま、私たちがすべきこと

 

SARSやCOVID-19に限らず、感染症が常に私たちのそばにあるものであり、人の交流の活性化に伴って広がっていくものなのであれば、今後の生活において感染対策を講じざるを得ないであろう。一方で、人々の移動や交流、エンターテイメントのない世界が実現するとは到底思えない。今後、世界がどう変わっていくか、どう変えていくかは、現代に生きる私たちに突き付けられた課題であると思う。加えて、感染の原因となる社会問題についても、正しく向き合わなくてはならない。

 

もう少し身近な話をするならば、まずは感染予防をしっかりすること。外出自粛が解禁され経済活動も徐々に再開されてきたが、やはり不必要な接触は避け、手洗い・うがいといった基礎的な予防策を徹底すべきである。特に後者については、COVID-19の終息後も「次の感染症」から身を守る最低限の手立てともなる。

 

そして何よりも、情報リテラシーを身に着けること。在宅やリモートが普及するにつれテレビニュースを中心とした情報メディアに触れることが増えたが、信憑性に疑問があるもの、主観にすぎないと感じるものが少なくない。一つ一つの報道に踊らされず、自分の力で判断すること――場合によっては必要な知識を身に着けることが必要と感じる。

 

最後に。人類はきっと遠からず、COVID-19を克服すると思う。2項で述べた通り、人類の歴史において感染症はたびたび出現し、そのたびワクチンや治療薬によりそれを克服してきた。STAY HOMEを強いられる日々は長く続かない。歴史に学びながら今を乗り越えて、これからの世界を考えていきたい。